[解説記事]陰謀論の概念的分析と現状のまとめ

京都大学文学部中島丈さんが陰謀論についてまとめた記事を作成しました。

概要
近年、「陰謀論」という現象が社会問題として注目を集めている。これは、Qアノンとよばれる陰謀論集団が引き起こしたとされるアメリカ連邦議会議事堂襲撃事件が発生したことや、新型コロナウイルスに関連する陰謀論が公衆衛生上の脅威となったことなどが主な要因であると考えられる。また、このことは日本社会でも例外ではなく、Qアノンの影響を受けた団体がワクチン接種会場に侵入し刑事事件に発展するなど、さまざまな影響を及ぼしている。
 しかしながら、陰謀論という現象はこの時代に特別なものではないし、一部の極端な人々が引き起こす異常な現象であるというわけでもない。実際には、時代や集団によらず普遍的に見受けられる現象であるとされる。それにもかかわらず、「陰謀論」という言葉の日常的な用法に曖昧さがあるために、陰謀論は「特別」「極端」「虚偽」といった漠然としたイメージと結びつけられがちである。その結果、「陰謀論」という言葉は「フェイクニュース」などと同じように、自分とは異なる立場の人々を攻撃し、分断や対立を煽る言葉として用いられてしまっているように思われる。そこで、インフォデミックとよばれる情報氾濫の時代において、陰謀論という概念を改めて整理して捉えることで、冷静な議論のきっかけを作ることが必要だろう。
 以上のような問題意識から、本稿では、陰謀論という現象についてさまざまな側面から検討していく。まず、第2章では研究者の代表的な説明を確認し、本稿で陰謀論について論じていくうえでの最低限の共通了解となる特徴を導入する。続いて3章では陰謀論とその研究の歴史について確認し、4章と5章では陰謀論という概念そのものや陰謀論が広まる理由について分析する。そのうえで、6章と7章では陰謀論に関する具体的な問題(日本における陰謀論、COVID-19に関する陰謀論)を紹介し、8章では陰謀論の拡散への対応策について検討する。最終的には、陰謀論という概念は多様な性質が重なり合ったものであるということ、人々が陰謀論を内面化するのには「単純なものの見方」が関係していること、陰謀論の拡散に対して単純な解決策で対応することは難しいこと、などを指摘する。
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